どうやって本を作ろう
7 語るヒント 語って得るヒント(a)

パワポが出来あがったら次は、それを使って、たくさんの人に向けて話す準備ですね! 前回の【どうやって本を作ろう⑥】を補うかたちで、現場でのコミュニケーション術について、おさらいしておきましょう。

話すスタイルは二つ。

ひとつ目のスタイルは、椅子に座って、机の上の資料を確認しながら、お客さんと同じ目線で話をしていく方法。ズームだと、自分のショットは右上の小さな窓になり、モニター中央の大きなスペースに資料の映像が来ます。この場合、資料が主役で、話者の机は脇にあることになりますね。

もうひとつのスタイルは、大きなスクリーン実物を背後に背負って、立ち位置で聴衆と向かい合って話す方法です。ひとつ目のスタイルに比べて、自分の姿が前面に押し出されますので、「出来事(資料)をして語らせる」というよりは、“自分が語る”といったニュアンスをもつ報告に適した方法です。ただ、ズームになってしまうと、現在の機能では、ひとつ目のスタイルと同じような画面構成になってしまうのが大半で、会場の雰囲気を映し出すのはなかなか難しいです。

では次に、その話し方ですね。

ご承知のように、なるべくゆっくりのテンポで、スライド一枚一枚にじっくり時間を費やすほうが、聴き手の心に残るプレゼンテーションになります。聴き手のなかには専門家も一般の方もいます。いろいろな知的背景の人が、自分なりの咀嚼ができる、落ち着いた雰囲気のテンポにするように心がけましょう。

自分の得意なペースに引きずられてはだめですよ。あなたが、聴衆たちのくつろげるゆっくりとした時間の流れを、話す速度とアクセントで創り出すのです。なるべく文章は少なく! 1枚のスライドに5行以上引用するときには、ポイントとなる単語にマーカーの色を塗ること。観衆はその言葉に注意すればよいのですから、楽です。もちろん、その大切な単語のところは、何度か繰り返したり、大切な文章はさらに速度を落とすことも忘れずに! そうすればきっと、伝えたいポイントが、聴き手の頭の中にすんなりと入ってくることでしょう。

〈法華コモンズ仏教学林〉での講演シーン

だいたい、講演会の「質疑応答」は面白くない、とは思われませんか?――それはひょっとすると、話し手の誘導に問題が潜んでいるのかもしれません。

質問がほとんど出ない。手が挙がったとしても、講演の内容と関わりのない、聴き手自身が個人的に「話したくてしょうがない」内容を延々と話す。それを止めることのできない司会者。だからいつも質疑応答は、自分勝手な人の長話ひとつで打ち切り。会場は不満に満ちたまま、散会。そんな経験ありませんか?

話し手が、会場との質疑応答を含め、講演全体をコントロールする秘訣をお話ししましょう。

まず講演の冒頭で、議題を全員に告げた後、講演の時間「割り振り」を告げる。例えば30分。そのとき話し手さん自身は25分で終わらすつもりでいる。それは、話したいことができて来て、どうしても持ち時間を超えて伸びてしまいがちだから。そのうえで、残り時間(例えば10分)を使って会場との質疑応答に充てることを告げる。このことによって、聴き手は、一方的な受け手にまわるのではなく、能動的にこの話にかかわる姿勢をもつ気持になります。だから、事前に「質疑応答の時間を設けてある」ことを告げておくのが大切なのです。

そして、自分の持ち時間の終わりか、質疑応答の冒頭で、おおよそ5分間くらいを使って、自分の講演内容をまとめます。この講演の結論を述べて、「結論が出なかった事」を“これからの課題”に挙げます。

そのうえで、もし余裕があれば、聴衆にむかって『今日はうまくいきましたね。皆さんご協力ありがとうございました! 聴く腕をあげられましたね』というように、聴き手つくってくれた会場の雰囲気のおかげだ、ということを労っておくと、聴き手も、充実した心地になりますよね。また“次の課題”の講演のときにも足を運んでくださる「リピーター」になってくれる可能性もありますよね。

【どうやって本を作ろう】 8につづく

磯前順一(いそまえ・じゅんいち)

1961年、水戸生まれ(いまは水戸と京都を往ったり来たり)。1991年、東京大学大学院博士課程(宗教学)中退。東京大学文学部助手、日本女子大学助教授を経て、2015年より、国際日本文化研究センター研究部教授。文学博士。

著書は『土偶と仮面――縄文社会の宗教構造』〔1994年〕以来、多数。近著に『ザ・タイガース――世界はボクらを待っていた』〔2013年〕、『死者たちのざわめき――被災地信仰論』〔2015年〕、『昭和・平成精神史――「終わらない戦後」と「幸せな日本人」』〔2019年〕など。

――被災地の沈黙する声に耳を傾ける(女川 2011年4月末)――

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