森のたより 樹のことば
「お花畑」の真相は(第3話)
[中島由理]
その地をその地らしく最も豊かにできるもの
ある面から見れば壮絶な攻防が繰り広げられているようでもあるけれども、なぜ“お花畑”からは、和やかで優しい気配が漂ってくるのだろうか。
庭に、背が高くなる種類の園芸植物を一株だけ植えていると、風や雨で倒れてしまうことがある。
自然界の草原では、多様なものの根が絡み合い、地上部もそれぞれの多様な形状によって空間を補完し合い、小さなものは下支えし、大きなものは大地に高々と彩りを添えつつ、多層的に互いが互いを支え合っているから、暴風雨のなかでも倒伏したりはしない。
背丈の低いものたちの下支え、土壌の水分の保持なくして、背の高いものは安定して立つことはできない。背の高い花も、深い切れ込みのある花弁であったり、レース状の透かしのような花の形で、下のものの日照を完全には遮ることがない。小さなものたちは、花を通り抜けた、穏やかな陽ざしが、心地良いようでもある。
同じ仲間だけでなく他の種類の植物と共にあることで、強風や豪雨で倒されることなく生きることができる。そして、互いに絡み合った根は、足許を堅固に保持しあって、急斜面のような場所でも崩れることなく、共に生きる基盤を守り分かち合っている。
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生命は満ち溢れようとしている。大地を豊かにしようとする強い意志のようなものを感じることがある。
強者・適者という言葉だけでは、ほとばしる精髄が零れ落ちてしまう。
入口が広ければより多くの水が溢れ出るように、生命は、大きく開かれたところにより多く満ち溢れて、その地をその地らしく最も豊かにできるものが生命で染め上げているのだと、美しく彩っている花たちが語っているような気がする。
幾層もの音色が合わさって新たな美しいハーモーニーが生み出されるように、互いが互いを補いあい、複層的に調和した響きが聴こえてくる。
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多様なものと自由に共に存るために、みずからの持ち場を守りつつ、支え合いながら、おのおのにふさわしい唯一無比の居場所で妙なる音色を響かせ合う“お花畑”でありたいとおもう。
――全三話「完」――
「木立の文庫さん4周年をお祝いして」
中島由理