どうやって本を作ろう
12 資金の獲得(前篇)
さて、ここでお金の話。
最近の若い人の本は、比較規模の小さい出版社から本を出すときには百万円前後の出版助成金を持って来なければならない。そのことは、博士号を取ったばかりで、その業界に就職したい若い人たちにとっては、すでに常識。
じゃ、そのお金をどこから得たらよいのか。最初は研究費。
常勤の職場で、経営が安定しているところがあれば、一年間20万から30万円程度の研究費が与えられるかもしれない。研究費に許容される費目は、職場ごとに異なる部分もあるけれど、文字起こしあるいは推敲には既定の支払い規則があって、その範囲内で支払うことができるという。大学などの職場に出入りしている編集プロダクションや印刷会社、個人的に親しい出版社に尋ねれば、そこで付き合いのある編集者や校正者を紹介してくれる可能性は高いでしょう。
個人の研究費でなくても、組織内部に「出版助成金」という研究奨励金が設けられている職場も多くて、その獲得は「行政で疲れて、研究にエネルギーを注ぐ状態になれない職場」であればあるほど、競争倍率が低くなるのが実情。 以上が、いわゆる職場の内部資金。かなり甘めの条件と競争率で獲得しやすい資金といえる。とくに若手の研究業績は、文科省に報告するためのアピール・ポイントだから、若い研究者には狙い目のカテゴリーになります。
そのほかに、外部資金というものがあって、さまざまな企業などが社会貢献を訴えるために、研究資金を提供してくれる。もちろん、競争。気の利いた職場には「研究奨励金一覧」というマニュアルが作られていて、それを見れば「毎年の何月に、どのくらいの予算で、どのような研究テーマに、どのような年齢やキャリアの研究者に資金を提供する考えがあるのか」が書かれている。年間スケジュールみたいなもの。それがない職場の人は、あるいはいまだ非常勤の人は、インターネットを通して検索してみましょう。
テーマと研究資金あるいは出版助成などと書いて検索して、次第に絞っていけば、自分の望む研究が、どのような支援財団から資金を得られる可能性があるかが分かってくる。その申請書類の書き方には、やはりコツというものがあるので、そのあたりの事情をよく知っている先生や先輩などにその秘訣を具体的に教えてもらうとよいですね。
研究テーマを記す際に、どのような今日求められている視点を、衆目を引く的確な単語で入れられるのか? 研究計画は、どれだけ具体的な研究提携者やその組織、あるいはプロジェクトの内容を書くことができるか? 申請までにどれだけの研究の準備を具体的に進めてきたのか? どのような研究分野の研究主題を持つ研究者と一緒に進められるのか? いかなる先行研究のなかに自分の研究を位置づけることができ、それが従来の研究成果を生かすものであると同時に、それまでにはない独自の視点からの読み替えになっているのか? などです。
【どうやって本を作ろう】 13につづく
磯前順一(いそまえ・じゅんいち)
1961年、水戸生まれ(いまは水戸と京都を往ったり来たり)。1991年、東京大学大学院博士課程(宗教学)中退。東京大学文学部助手、日本女子大学助教授を経て、2015年より、国際日本文化研究センター研究部教授。文学博士。
著書は『土偶と仮面――縄文社会の宗教構造』〔1994年〕以来、多数。近著に『ザ・タイガース――世界はボクらを待っていた』〔2013年〕、『死者たちのざわめき――被災地信仰論』〔2015年〕、『昭和・平成精神史――「終わらない戦後」と「幸せな日本人」』〔2019年〕など。