哀しむことができない
社会と深層のダイナミクス
著者|荻本 快
¥2,970
- ISBN|978-4-909862-23-5
- 初版発行|2022年03月30日
- 造本|四六変型判上製/たて組み
- ページ数|240
- 重さ|300
- 心理/思想
- 精神分析/現代社会
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現代日本の精神分析
個の疼きと社会の渦
こころの痛みに折り合いをつけていくプロセスと
現代日本社会の精神構造
内容紹介
また「あの国」は… また「あの人物」が… といった絶望的な“繰り返し”は決してよそ事ではなく、他ならぬ「この社会」そして「この私」が胸に手をあてて顧みるべき振舞かもしれません。――本書では破壊的な反復の渦に注目することで、身近な「スケープゴート/同調圧力」の連鎖の問題から、絶えない戦争まで、“社会の心”を精神分析します。――そして、社会の心が「自らの傷を無かったことにする」危険に警鐘を鳴らし、個の心が「傷」に気づき“哀しむ”ため、声なき声に耳を傾けてもらうことの大切さを説きます。
著者・出版社からの一言
★
著者から ひと言
〇精神分析の創始者であるジグムント・フロイトは、人が自分にとって大切な人を失くしたときには、それを受け入れ、こなし、その人がいない世界で生きていくことを認めていく過程を経ると指摘し、それを“喪の作業”と名づけました。喪の作業を経ることで初めて、人はその人に対する情緒や感情を認め、“哀しむこと”ができる、と考えたのです。
〇そして、哀しみへと至る路が困難であることも彼は指摘しました。“哀しむこと”が不能となった場合、あるいはその作業を放棄した場合には、メランコリーという空虚へと落ち込むことを示したのです。
★★
著者から もうひと言
〇どうか、生きづらさを感じておられるときに、過度に自分のせいだと思わないでいただきたいのです。そこには、本書で述べてきたように、社会と深層のダイナミクスの渦があるかもしれないからです。
〇サイコセラピーは、その渦を無かったことにするわけでも、落ち込んでしまうわけでもなく、そこからご自身の心の深いところにある言葉を見つけ、声を発するためのお手伝いをすることができます。それは、ご自身の心の変化へとつながっていくかもしれませんし、ご自身の言葉で何かを社会に向けて発信していくきっかけとなるかもしれません。
著者紹介
荻本 快(オギモト カイ)
国際基督教大学大学院教育学研究科博士後期課程修了、博士(教育学)。
相模女子大学学芸学部准教授、
相模女子大学子育て支援センター相談室コーディネーター。
米国ニューヨーク州Contemporary Freudian Society(IPA) Candidate,
米国ロサンゼルスNew Center for Psychoanalysis(APsaA) Member.
〇 著書と論文
『コロナと精神分析的臨床――「会うこと」の喪失と回復』〔共編著〕木立の文庫
『現代心理学入門』〔共著〕ナカニシヤ出版
『生涯発達臨床心理学』〔共著〕大学図書出版
『青年期初期における両親への同一視の意味』〔博士論文〕
”Inability to Mourn” (A. & M. Mitscherlich)and nationalism in Japan after 1945. International Psychoanalytical Association, 51st Congress in London, 27th July 2019. / Inability to mourn in Japan after WW2: In between both perpetrator and victim. International Psychoanalytical Association, 52nd Congress, Pre-congress of IPA and Humanitarian Organization Committee, 20th July 2021. / Trauma and guilt in Japan: A case of large group. International Dialogue Initiative Case Conference, 30th September, 2020. /「日本の被爆トラウマの世代間伝達――否認・依存・断絶」『国際基督教大学 教育研究』59, 169-176, 2017. /「後期青年期女性の母親イメージの分化――キャンパスアイデンティティグループによる事例研究」『集団精神療法』37(2), 245-253, 2021. /「メンタライゼーションに基づく治療 (MBT)――Not knowingの意義と集団療法の実践」『精神科』40(3), 391-396, 2022.
もくじ
プロローグ
――境界が閉じること、開かれること
第一章 哀しむ、ということ
――フロイトの「喪の作業」
再体験の場にいること
もののけの成仏
第二章 哀しむ、ことができない
――ミッチャーリヒの「喪の不能」
思いどおりにしたい
集合的な心理的努力
過去の否認と反復
第三章 日本の中心に浮かぶ、緑の島へ
――現人神の喪失
精神構造を推し量って
神の人間宣言――三島由紀夫の『英霊の聲』
罪悪感について
第四章 罪の感覚、「すまない」物語
――北山修の「見るなの禁止」
神話的思考と社会的/内的構造
ジェンダー役割の固定化
いまもある「根の国」――村上春樹の『騎士団長殺し』
組織や社会のダイナミクス
第五章 思い起こすこと、そして哀しみ
――戦中世代の女性とのサイコセラピー
第六章 加害と被害、両方を生きる
――批判的思考にむけて
両方を生きる場
喪失の否認と躁的な防衛
精神分析的な戦後
エピローグ
――アジア・太平洋の精神分析
図書設計・デザイン
寺村隆史
装画・イラスト
坂本伊久子(装画)
デザインの特徴
同著者の前作『コロナと精神分析的臨床』と同じ装幀家&イラストレーターのコラボ作。
ひたすらに「哀しみ」が塗り重ねられる「青」の6色調に、
染まず漂う(牧水)「しら鳥」たち(白箔)が羽ばたき、その行く先の「こころの平安」を暗示する?
(しかしよくよく見ると、白箔が微かに「青」に染まっているところが、装幀家のネライとか…)