脳の落とし穴、愛着の忘れもの
発達障害の謎にせまる
著者|小柳晴生・大石英史
¥2,200
- ISBN|978-4-909862-37-2
- 初版発行|2024年09月20日
- 造本|四六変型(スリム)判上製
- ページ数|256
- 重さ|310
- 教育
- 子育て/福祉
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「先天性」説の“陥穽”から抜け出す試み――手掛かりは“感性”
一人ひとりが自分自身と「分かち合う」ことが出来るようになるため
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内容紹介
発達障害を「先天的な脳の機能障害」とする説が浸透しています。そのことで親は「育て方の問題」という偏見から逃れられ、子への支援もスムーズとなりました。ただ、そこに落とし穴があります。大人の「致し方ない」という諦念が子どもとの“つながり”を妨げ、心の通う“交わり”が希薄になってきたのでした。そこで本書では大胆にも、発達障害を〈愛着〉という視点から捉え直します。――異なるスタンスの心理カウンセラー二人が、臆することなく考えをぶつけ合うライヴな「対論」形式で、読む者をグイと引き込みます。
著者から ひと言
著者: 小柳晴生より
議論は、子育てや大人の生き方はもちろん地球温暖化や働き方、経済や歴史にまで及びました。これは、話を広げ過ぎたのではなく「発達障害と呼ばれる現象」が、人類史の大きなうねりのなかで理解する視点がなければ、捉えることができないからです。
この本が発達障害と呼ばれる現象について幅広く議論される刺激となり、子どもたちが、そして大人が、生きやすい社会になることに貢献できれば望外の喜びです。
著者: 大石英史より
本書の対論は、発達障害を〈愛着〉の視点から捉え直すことをテーマとしましたが、これまで私たちが追いかけてきた〝幸せ〞がどのようなものであったか、という大きなテーマと向き合うことにもなりました。
便利さと快適さを追求する社会のなかで、子育てがどう変わったのか? それは子どもたちの発達にどのような影響をもたらしたのか? どんなに便利な社会になっても、人が育つために変わらず大切なことは何か? そのことは地球環境の問題ともつながっているのではないか? などなど……。
著者紹介
小柳晴生(おやなぎ・はるお)
1950年生まれ。金沢大学卒業、広島大学大学院修士課程修了。
香川大学教育学部教授、保健管理センター所長、放送大学客員
教授、2005年に退職。瀬戸内海を眺める山中で「半隠居生活」に挑戦して19年になる。2006年、日本人間性心理学会第一回学会賞を受賞。
大石英史(おおいし・えいじ)
1960年生まれ。九州大学教育学部卒業、九州大学大学院教育学研究科博士後期課程単位取得退学。山口大学教育学部教授、鹿児島大学大学院臨床心理学研究科教授を経て、現在、宇部フロンティア大学心理学部教授。臨床心理士・公認心理師、学術博士。専門は人間性心理学、コミュニティ臨床支援学。
もくじ
前篇 発達障害のどこが「謎」なのか
対論1 増えつづける発達障害――統計への疑問
統計的な数字から生じる違和感/配慮を必要とする子どもは増えているのか?/発達障害という概念が及ぼした影響/発達障害の概念が受け入れられた理由/多くの社会的変化が関与している
対論2 疑問から出発して――迷うことを大切にする
違和感に立ち戻って/感性を手掛かりに探求を深める/子ども理解の視点が抜け落ちている?
対論3 迷いながらの出会い――発達障害という見方
うかつに介入できないという空気/情緒のやりとりに注目すると/脳の機能障害という仮説/学生相談のなかで/臨床心理士として学校に入って
対論4 発達障害を疑問視する――愛着という視点
発達障害という概念を怪しむ言説/親を苦しめないための方便として/脳の障害ではなく関係障害とする言説/発達障害「もどき」の提唱/先天的障害説に疑義を挟む動物行動学者の観察から/親子関係が変わると状態が変わる/苦しみながらの真摯な模索
対論5 愛着障害の視点―――愛着形成不全とは
クローズアップされてきた「愛着」/先天的なものとの鑑別が難しい?/愛着形成不全という表現/アメリカに追随してきた理論
対論6 愛着形成不全を読み解く―――対象関係論を手がかりに
人生早期の母子関係に着目する/投影して同一化するとは?/感覚過敏をもたらす安心感の希薄さ/「こころ」をもった個人になるということ/思いを巡らせ、受けとめ、返す/二次障害としてのいじめ/受けとめられない親の背景/子どもの「心持ち」に応える
後篇 時代と社会とこころ
対論7 生きる速さの変化――SNS情報社会の到来
生きる速さが増した時代/速さの変化が親子関係に影響する/神話的時間と現実の日常の時間/望んだ変化で苦しむことにも/生物時間と社会時間のギャップ/変化が激しい環境で子どもは育つのか/カウンセリングはゆっくり生きる知恵/情報が爆発的に拡大している/地球温暖化と同じ根をもつ?
対論8 情報に曝され――生きる速さだけでなく
情報機器の進化による影響/機械にさらわれる子ども/人さらいが家の中にいる/おぶいひもを使わなくなった
対論9 原初的な受信機能――情報の影響だけでなく
原初的な能力がはたらきにくく?/自然から離れた生活で/親も時代と社会の波のなかで/子育ての技術化、知性化そして教育化/子どもとの響き合いを難しくする/不安の解決をラベリングに求める
対論10 気持を分かちあえない――受信機能だけでなく
愛着形成不全の最大の不都合/生後すぐからの情緒のやりとり/ともに眺めるという視点から/身体接触をいやがる/視線が合わない/人間の絵が描けない/笑顔と泣くこと/情緒のズレは心理療法の試金石/わかる・自分と分かちあう
対論11 コミュニケーション――こころがうるおう会話
言葉のやりとりの底流に/情報的・情緒的コミュニケーション/形のないものを見ること/薪ストーブとのコミュニケーション/「わかる」感覚を基盤にして/不都合の原因も解決策も外にある/こころがうるおう会話/オンラインで情緒的会話は?/直接会った体験で感じたこと
対論12 子どもが育ちにくい社会――コミュニケーションだけでなく
子どもは先がわからない存在/子どもの時間と空間がやせ細った/子育ての世代感覚が弱くなった/人生が一代で終わるようになった/商品経済社会のなかでの子育て/子どもの出来・不出来で/いつくしむという眼差し
対論13 安心して子育てを――子どもが育ちやすい社会に
養育者の多忙化とゆとりのなさ/母性という言葉が使いにくくなった/負担になっている「小1の壁」/産前・産後うつの問題/子どもをかわいいと思えない/子どもをもつと社会的に弱くなる?/コミュニティでのつながり/喜びや気がかりを分かち合う/直接的な関わりを避けたい/無理のない範囲でやる/プロジェクトチーム的に?
対論14 生き方が問われて――安心とゆとりを実現する
豊かさを手に入れたものの/毎日がお祭りか戦場か/からだの声に耳を傾ける/ある事についての意味ある感覚/自然から離れないで/都会と田舎では?/判断の基準は美的感覚?/生きる速度を上げてどこへ?/生きる速さを落とすことは?/どうして変更は容易でないのか/ゆとりを実現できるのだろうか/人生で何を大切に生きたいのか/ミダス王とならないために
図書設計・デザイン
尾崎閑也
デザインの特徴
著者ふたりの【対論】というスタイルを最大限に演出するため、本文も各著者で色分け――装丁デザインも、カバーの色調もすべて「二色」を基調に。本文の「三色め」の黒は、緑の版と茶の版を重ねた「仮想」黒色というチャレンジ。