第10回(連載再開)
《新型/現代型うつ》とひきこもり

[加藤隆弘]


久しく更新していなかった「みんなのひきこもり」連載を再開します。前号(第9回)の執筆が2020年8月でしたので、10ヵ月ぶりです。この一年で私たちの生活は大きく様変わりしました。以前の日常を取り戻すまで、もうしばらくかかりそうです。今回は、ひきこもりと同様に私が臨床と研究に力を入れている《新型/現代型うつ》を紹介します。

従来、日本では「勤勉」「生真面目」「凝り性」の方がなりやすいと言われてきた《うつ病》(メランコリー型うつ病といいます)と違って、《新型/現代型うつ》には、「職場や学校で抑うつ症状をみずから訴えてすぐに休んだりするものの、授業や業務以外の時間や週末などには割と快適に生活できる」という特徴があります。そのため、周りから『ただ怠けているだけじゃないの?!』と、陰口をたたかれることすらあるようです。

《新型/現代型うつ》という病気の概念の元になる〈ディスチミア親和型うつ病〉が提唱されたのは2005年のことです。この概念は、九州大学精神科精神病理グループの先輩であった樽味伸さんによって提唱されたのですが、無念なことに樽味さんはこの直後に急逝されたのです。私はこの時期、樽味さんとデスクを隣にしていたのですが、亡くなってしまったて時の遣る瀬なさ…、いまでも忘れることができません。私たちは、樽味さんの後進として、彼の萌芽的な概念を現代の精神医療・精神医学に取り入れる活動をおこなってきました。

樽味さんは《新型/現代型うつ》の病前性格(ディスチミア気質)として、

  1. もともと勤勉ではない
  2.  社会におけるヒエラルキーや階級を毛嫌いしたり避ける
  3.  社会的な役割のない状態を好む
  4. 他罰的傾向
  5.  漠然とした万能感

といった特徴を挙げています。こうした特徴は《新型/現代型うつ》の方々だけでなく現代人に共通する気質かもしれません。私自身にもこうした傾向が全くないとはいえません。みなさん、いかがでしょうか?

ひきこもりも《新型/現代型うつ》も、1990年代後半から今世紀初頭にかけて台頭してきました。なぜ、この時期だったのでしょう。
私は、この時期のバブル崩壊による経済危機の影響が無視できないと思っています。戦後に生まれ、高度経済成長の60年代70年代に結婚し、モーレツ社員として右肩上がりの会社のために長年尽くしてきた「団塊」世代の人々にとって、企業神話の崩壊は、彼らの寄る辺の喪失を招き、中高年の自殺が急増したのもこの時期です。

樽味さんは、〈ディスチミア親和型うつ〉の好発年齢を「1970年代以降に生まれた者」としています。終身雇用・正社員といった生涯の安心が保証されるライフプランが描きづらくなった時代、つまり「団塊世代の親をもつ子ども」が青年期を迎える時期に大量発生したのが、《新型/現代型うつ》そして“ひきこもり”なのです。


加藤隆弘加藤隆弘(かとう・ たかひろ)

九州大学大学院医学研究院精神病態医学 准教授(分子細胞研究室・グループ長)
九州大学病院 気分障害ひきこもり外来・主宰
医学博士・精神分析家
『メンタルヘルスファーストエイド こころの応急処置マニュアルとその活用』(編著 創元社 2021年)
『みんなのひきこもり つながり時代の処世術』(木立の文庫 2020年)
『北山理論の発見  錯覚と脱錯覚を生きる』(共著 創元社 2015年)