第7回 “孤独感” に蓋をしてくれるモノ

[加藤隆弘]


ただし、具体的な対人的な支援の「手」がなくても、幸か不幸か、現代社会は“孤独感”「人恋しさ」を解消させてくれる、あるいは、忘れさせてくれる、蓋をしてくれる、モノで溢れています。コロナ禍で直接人と会うことが難しい状況になっても、実際には「人恋しさ」を感じていない人も多いことでしょう。

 

1990年代にインターネットというミラクルな技術がわたしたちの日常生活に登場して以降、リモートでの対人交流ツールが目覚ましい勢いで発展しました。1990年代後半、ちょうど私が大学生でプチひきこもり気味だった頃、インターネットの第一次ブームが起こりました。ネット上の不特定多数のユーザーと文字で情報交換するBBS(Bulletin Board System)と呼ばれる電子掲示板が流行しました。

実は、私はこのBBSを柱にした国際交流サイトを自ら立ち上げるなどして自宅にいながらにして世界中の人たちと交流できるという技術に、学生ながらにして興奮を覚えていたのです。こうした学生時代でしたから、少なくともプチひきこもりになった最初の頃は「孤独感」「人恋しさ」を自覚することはなかったと当時を振り返ります。

今では、Facebook、Twitter、LINEといったSNS(Social Networking Service)が普及し、さらにはskype、zoomといったライブで双方向性の対人交流ができるツールの登場により、いとも簡単に世界中の人々とface-to-faceライクな対人交流が可能になりました。コロナ禍の影響でこうしたツールの利用者が世界的に激増しています。もちろん、私自身もこうしたツールの恩恵にあずかっています。緊急事態宣言の時期は、少なくとも週に数回はZOOMを活用して講義したり、ミーティングをしていて、当初は「面と向かってのレクチャーや出張なんていらないのではないか?!」とさえ思いました。

ただし、いまはZOOMなどを介した双方向性の顔をみることができるツールだけではやっぱり何かが足りないという「物足りなさ」に自覚的になっているのですが(このあたりの心持ちに関しは後ほど触れたいと思います)。

 

さて、“孤独感”を癒やすモノは、最先端のインターネットを活用したツールに限りません。古来、お酒(アルコール)は手軽に“孤独感”を癒やしてくれる大人の嗜好品です。子どもであれば、ただひたすらにテレビゲームやオンラインゲームに興じることで、直接友達と会うことができない辛さを自覚せずに済んでいるのかもしれません。スマホ世代の若者であれば、ぼんやりとSNSを眺めることで、コロナ禍による自粛生活を割と快適に過ごしていたのかもしれません。

実は、長年のひきこもり生活を余儀なくされているひきこもり者であっても、ひきこもりはじめの初期には“孤独感”「人恋しさ」を自覚しないケースが少なくないのです。アルコール、ゲーム、インターネット、SNSといったモノの恩恵にあずかることで、彼ら・彼女らはネガティブな感情にさいなまれることから回避できているのです。

しかしながら、こうした状況が数ヵ月、数年と続くと、病的ひきこもりと評価されるような状態へシフトする危険性が高まります。


加藤隆弘加藤隆弘(かとう・ たかひろ)

九州大学病院 精神科神経科 講師
日本精神神経学会専門医・指導医、精神保健指定医
共著『北山理論の発見』(創元社 2015年)など