リレーエッセイ「こころとからだの交差点」

introduction 眼差しが交わるところ

[岡田暁宜] 


 平成最後の秋に【木立の文庫】は誕生しました。
 「木立」とは、群がって立っている木や場所のことです。母なる大地で静かに発芽した木の芽は、長い年月のなかで木立となるでしょう。 【木立の文庫】という大地に根ざした「知」の木の芽は、最初は小さなものかもしれませんが、やがて「知」の木立となることを私は祈念しています。
 このたび【木立の文庫】の誕生に際して“リレーエッセイ”がスタートすることになりました。それに先立ち、本企画について簡単にお話ししようと思います。

 リレーエッセイというと、学校の先生が順にエッセイを執筆する「教員エッセイ」などを頭に浮かべられるかもしれません。私も、年一回程度の頻度で大学教員が順番に自由なテーマで執筆するエッセイを経験したことがあります。ある日、突然、原稿の締め切りを知らされて、慌てて執筆するというのが常でした。テーマがある場合にはそれに基づいて、執筆者はエッセイを執筆することになりますが、「教員エッセイ」のようにテーマが特に決まっていない場合には、エッセイを執筆すること自体が共通のテーマになるのでしょう。
 それに対して本企画は、《こころとからだの交差点》というひとつのテーマをめぐって三人が執筆することが特徴です。スタート前の私の印象を述べますと、このような“リレーエッセイ”は「集団における個人の自由連想」で、プロセスのなかで「集団としての自由連想」となるかも知れません。
 さらに私が今回の“リレーエッセイ”で連想するのは〈連句〉です。連句とは、長句(五、七、五)の情景に対して、連想したことを短句(七、七)としてつなげるものです。以前に私は集団で連句をやった経験がありますが、そのときも精神分析における自由連想のことを連想したことを記憶しています。

 〈連句〉でいえば、本稿は「発句」といえるかもしれません。
 集団精神療法や連句では、決まった設定があります。今回の“リレーエッセイ”では、三人でおよそ月刊のペースでバトンをつなぐという設定となります。私の以前の体験と比べてかなり高頻度で、エネルギーを要する「エッセイマラソン」となるかも知れません。経験的に、精神分析では、話すことがなくなってから話すことに自由連想の意義があるといえましょう。もしかすると書くことがなくなってから書くことに、私たちの“リレーエッセイ”の意味があるのかも知れません。

環状交差点(ラウンドアバウト)のように、こころとからだの交差点には信号機はいらない。
環状交差点(ラウンドアバウト)のように、こころとからだの交差点には信号機はいらない。

 この“エッセイのリレー”をスタートさせるにあたり、執筆者について触れる必要があるでしょう。
 エディターの津田敏之さんからいただいた《こころとからだの交差点》というテーマから私が連想したのは、齋藤清二先生でした。齋藤先生は、私がかつて心身医学や心身医療に取り組んでいた頃にこの領域の先輩で、私がキャンパスメンタルヘルスに携わるようになったときにも、大学保健管理センターで働く医師として先輩の立場でした。齋藤先生は、内科医であり臨床心理士でもあるが精神科医ではないという立場で、ユング心理学に造詣深く、「ナラティヴ」という領域の第一人者です。私は、齋藤先生と出発点は同じですが、心身医学から精神分析や力動精神医学へと変遷を遂げているという点で、齋藤先生とは異なる視点を有しているといえるかも知れません。このように異なる立場の人間で同じテーマで“リレーエッセイ”を展開するところが、本企画の特徴です。
 そのような視点で、第三の執筆者の候補者を齋藤先生にご推薦いただくことになりました。そして齋藤先生から磯野真穂先生をご推薦いただきました。じつは本稿を書いている時点で、磯野先生と私は直接面識はなく、たがいにメールなどでもやりとりをしたことはない関係です。Web上で得られる情報を拝見すると、磯野先生は、早稲田大学人間科学部スポーツ科学科を卒業し、オレゴン州立大学で修士を、早稲田大学で博士を取得した後、早稲田大学での勤務を経て、現在は国際医療福祉大学大学院で講師をしておられます。摂食障害や精神医療などに関する業績も多く、相当に広い視点をもっておられるに違いありません。個人的にとても楽しみにしています。
 齋藤先生と磯野先生と私の三者の背景をみる限り、三者の視点の相違は、専門・職種・性別・年代などにおいて、とてもバランスがよいという印象です。

 三者による対話は「鼎談」とも呼ばれますが、“リレーエッセイ”は、それとも異なります。私にとっていろいろな意味で新しい体験となるでしょう。【木立の文庫】の門出としても、本企画が創造的なものになることを心から期待しています。


岡田暁宜 おかだ・あきよし
名古屋工業大学保健センター教授
1967年生まれ、名古屋市立大学大学院医学研究科修了、医学博士
愛知教育大学・准教授、南山大学・教授を経て現職
精神分析協会・正会員
2010年、精神分析学会山村賞受賞