みんなのひきこもり

第4回 新しい「ひきこもり」の定義

[加藤隆弘]


そもそも、実際のひきこもりの現場では、「自宅からほとんど外出しない子どもが、精神疾患をもっているのかどうか」の評価は容易ではありません。2010年の厚労省のガイドラインの定義では、「社会的参加を回避し」となっていますが、回避しているかどうかの評価も難しいのです。

たとえば、「することがないから家にいるだけで、人を避けているわけではない」とか「直接人と会うことはないけど、ネットでは友達がたくさんいる」と訴えて支援を拒否するケースが稀ではないことが、わかってきました。
 

そこで、こうした曖昧な状況を打開し、支援が必要なひきこもり状態にあるかどうかをスムーズに判断できるようにするために、最近、私たちは《病的ひきこもり hikikomori: pathological social withdrawal 》の定義(診断評価基準)を新たに作成しました。海外でも活用できるように英語版も作っていますが、ここでは、日本語版の定義の要点を記します。

病的な社会的回避または社会的孤立の状態であり、大前提として自宅に居留まり物理的に孤立している状況にある。こうした状況に対して本人が苦悩しているか、機能障害があるか、あるいは、家族・周囲が苦悩しているということが必要条件である。6ヶ月以上を「ひきこもり」とし、3ヶ月以上を「前ひきこもり」とする。外出頻度が週2-3回を軽度、週1回以下を中度、週1回以下でかつ自室からほとんど出ない場合を重度とする。併存症の有無は問わない。必須ではないが、社会的参加の欠如、直接的な交流の欠如、間接的な交流の有無の評価は重要である。
(Kato et al. World Psychiatry 2020より筆者邦訳)

 

この新しい定義が、これからのひきこもり臨床や研究で広く利用されるようになればと願っています。

定義では、「外に出ないこと(物理的撤退)」を必須項目とし、それ以外は補足項目としました。外出の頻度に応じて重症度を新たに設定しました。「併存症の有無は問わない」とすることで、これまでの混乱の解決を試みました。つまり、精神疾患をもっていてもいなくても、病的ひきこもりの評価をできるようにしました。

現在のひきこもり状態が病的か否かの判断は、物理的にひきこもっている本人あるいは周囲(主に家族)がその状態に対して困っているか、あるいは、ひきこもっていることで学業、就労、あるいは日常生活に支障を来しているかどうか(つまり、機能障害の有無)が鍵になります。いくら物理的にひきこもっているといっても、すべてを病的とみなす必要はありません。

職業的にひきこもり的な環境が適している仕事があります。宗教によっては、隠遁hermitを修行として課しているものもあります。小説家や芸術家のなかには、創造的活動のためにあえてひきこもり的環境に身を置くこともあるようです。私自身も、何かに集中的に取り組みたいとき、ふと、「ひきこもりたいなあ」と思わないわけではありません。

補足項目には、「どのくらい社会参加しているか(就労や学業の有無)」「直接人と交流する機会があるか」「インターネットを通じた人との交流があるか」「孤独感をもっているかどうか」「精神疾患を並存しているか」といった評価が含まれます。補足項目を含む詳細な評価を実施することで、一人一人の状態に応じた個別性の高い適切なひきこもり支援を提供しやすくなることを期待しています。

今回の定義では、一人暮らしの高齢者や主婦も「病的ひきこもり」の基準を満たす可能性があります。特に、中高年の社会的孤立は孤独死といった無視できない重要な社会問題に直結しており、今回の定義がこうした人々の早期発見・早期支援にも役立つはずです。

昼間は悶々として自室にひきこもっており、人目の少ない深夜に毎日20分程度コンビニへ外出している場合はどうでしょう。週4日以上外出しているため今回の狭義の定義からは外すという考えもあります。当事者も「俺は毎日外出しているじゃないか! ひきこもりじゃないぞ!!」と主張するかもしれません。しかしながら、こうした場合には、補足項目の「社会参加の欠如」や「対人交流の欠如」まで評価し、「病的ひきこもり」に類する状態として評価することで支援に繋げることが重要です。ちょっとした散歩やコンビニ外出があるだけで、「外に出ているからひきこもりではない」と断定しないことが重要です。


加藤隆弘加藤隆弘(かとう・ たかひろ)

九州大学病院 精神科神経科 講師
日本精神神経学会専門医・指導医、精神保健指定医
共著『北山理論の発見』(創元社 2015年)など